
十勝のブランド和牛として有名な「十勝和牛」。甘みを含んだサシのとろけるようなおいしさが特長の十勝和牛はどのように育てられているのか。十勝和牛振興協議会肥育部会の蛯原一部会長に聞きました。
十勝のブランド和牛として有名な「十勝和牛」。甘みを含んだサシのとろけるようなおいしさが特長の十勝和牛はどのように育てられているのか。十勝和牛振興協議会肥育部会の蛯原一部会長に聞きました。
牛は大きく分けると、搾乳を目的として飼育される乳用牛と、食肉を目的に肥育される肉用牛に分かれます。「十勝和牛」は肉用牛に分類され、白黒模様が特徴的な乳用牛・ホルスタイン種とは品種が異なります。十勝は乳用牛が圧倒的に多く、十勝が酪農王国と呼ばれる所以(ゆえん)となっています。
「十勝和牛」は、肉専用の黒毛和種であり、道内で生まれ十勝で肥育された牛。十勝の生産者403戸(2024年4月現在)でつくる十勝和牛振興協議会の会員が肥育し、ホクレン十勝枝肉市場に上場したものが条件となります。
地域では地元のブランド和牛を広めようとさまざまな取り組みが展開されています。その場で十勝和牛を焼いて食べられるイベント「十勝和牛感謝祭」は年々来場者が増えています。また本州の百貨店で行われる物産展でお弁当を販売すると、固定のファンが商品を買い求めるなど、「十勝和牛はおいしい」と評価を受ける機会が増えました。和牛生産日本一の鹿児島県などと比較すると、北海道は和牛生産の後発地とされますが、その認知度は徐々に広がりを見せています。
十勝和牛振興協議会肥育部会長
蛯原一さん
黒毛和種の生産農家にも2種類あり、子牛を10か月ほど育て、素牛(もとうし)として主に道外に出荷する繁殖農家と、さらに20か月を要して出荷する肥育農家とに分けられます。同会の肥育部会長を務める蛯原一さん(幕別町忠類)は、十勝和牛の繁殖から肥育までを一貫して手掛ける肥育農家です。
蛯原さんの牛舎には、約350頭の黒毛和種が飼養されています。このうち繁殖用の雌牛が180頭、将来「十勝和牛」になる肥育中の牛が40頭。残りの120頭ほどは10カ月齢未満の育成牛です。この育成牛が成長後、肥育されて「十勝和牛」になったり、繁殖用の牛となります。
一般的に、肥育期間は生後10カ月から30カ月前後です。特に肥育の時期に重要なのが、しっかりと牛が飼料を食べて体重を増やすこと。蛯原さんの牛舎では、粗飼料として道産の稲わらや自家製の牧草を与えるほか、トウモロコシや大麦、小麦などの栄養がたっぷりの配合飼料も給餌しています。体重は10カ月のころの320キロ程度から、出荷時は800~900キロまで増えていきます。
トウモロコシや大麦が含まれた配合飼料。
餌をしっかりと食べることで体重が増え、とれる肉の量も増える
ホルスタイン種は出荷まで約22か月、交雑種が約25か月であるのに対し、「十勝和牛」の生育期間が長いのは、長期間を掛けて脂肪分を蓄積させるため。和牛の代名詞とも言える「サシ」はこの時期に入るのです。 “十勝晴れ”と呼ばれる長い日照時間や、広大な農地を活かしてとれた飼料を活用する耕畜連携型の牧畜ができるのも「十勝和牛」の品質を高める重要な要素となっています。
2011年、「十勝和牛」は地域団体商標登録を果たしました。同商標は、地域名と商品名を組み合わせた名前を商標登録できる制度で、地域ブランドの保護などを目的にしています。十勝管内では「十勝川西長いも」「大正メークイン」などに続き7件目、道内では16件目となりました。全国的には「松坂牛」「米沢牛」「神戸ビーフ」などが登録済みで「十勝和牛」はその仲間入りを果たしています。
清潔に保たれた牛舎内部
十勝では育種組合ができて種雄牛の改良が進むなど、肥育と育種(種雄牛)が連動した取り組みが行われています。2027年には全国和牛能力共進会が音更町、帯広市で開かれることが決まるなど、十勝は和牛の話題に事欠きません。
十勝には生産や品質が日本一と言われる農畜産物が数多く存在し、「十勝」の名は全国の消費者に広く知られています。「お祝いやイベントごとの時に、十勝和牛が第一に選ばれ、食べてもらえるような存在にしたい」と蛯原部会長。地域のブランド和牛をさらに広めていくために、生産者は日夜努力を続けています。
地域の人たちにもさらに親しまれる十勝和牛にしたいと話す蛯原部会長。
牛の健康状況にも気を配る